No.33

歴史

製造業に携わったことはないが、
「made in Japan」には誇りを持っている。
日本人が作り出す、正確で丈夫で繊細な商品。
他国がどれほど挑んでも敵うわけない、そう思っていた。

そんなモノづくり日本のイメージを揺るがすようなインパクトのある事件を、
近ごろ度々見聞きするようになった。


嘘をついたり誤魔化したりすることが良くないということは、誰もが知っている。
そう教わってきたし、おそらく多くの人が同じように学んできたと思う。

なのに何故、企業の中ではそれが行われてしまうか。


高野山蓮華院817年開創。
今日までの1200年という歳月。
仏とともに歴史も守られてきた。
現在寺にあるものは今の住職が生まれるずっとずっと前の人の持ち物。
寺の権威や評判も代々引き継がれてきたもの。
自分のものなんて何一つないが、
途絶えぬよう絶やさぬよう時代にも寄り添いながら変化も受け入れ、歴史を繋いでいく。

時が重なれば重なるほど重責は増し、
受け継いでいるものの大きさに気圧されそうになるが、
毎日の務めを果たし来訪者をもてなして、
寺の歴史を話して聞かせる。
その行いが脚光を浴びたり収益に直結する訳ではないが、
寺を守り歴史をつなぐために日々淡々と行われる。
憶測であるが・・。


企業にも同じことが言えないか。
収益や効率よりも絶対的に優先させるべきものがある。

寺の中には数百年前の空気が押し込められたような、そんな佇まいがある。
朝は予想通り、薄暗く寒くて冷たい。
もしその場所が冷暖房完備で床暖房も備えてあるような、
近代的で明るい便利な施設に居住まいを変えたとしたら。
もし、寺の歴史を語って聞かせるのが自動音声やペッパーだったら。
訪れる人たちに、どれだけの価値や奥深さを伝える事ができるだろう。

効率化や利便性の追求は行われて然るべきことだ。
しかし、寒くても面倒でも無駄でも守らなければならないものがある。
それを疎かにしては企業の命は短命となる。
先人が築いてきた「これまで」に敬意を表し、
それによって自分にも貢献できる機会が回ってきたことに感謝し、
「これから」を築いていく。

伝える人が
受け継ぐ人が、
お互い相手に向かって精いっぱい手を伸ばそう。
届かないものをどう届けようかと、
受け取り難いものをどう受け取ろうかと、
互いが奮闘することで、歴史は繋がっていく。