No.47

コールセンターを改革する~その2~

決定する人と実行する人は同一であることが望ましい。
自分で決めて実行するから責任感が湧く。他人が決めたことを行うのはどうしても「やらされている」という気持ちが生まれやすく当事者意識が薄くなる。しかも、うまく行かない場合に責任の所在が不明瞭で、実行する人たちは「言われた通りにやっただけです」と言い訳をするし、決定した側は現場の能力不足を嘆く。
結局、問題があるのはお互い相手だと認識しているため誰も責任を感じていない。しかし、このままでは現状が良くならないからまた別の施策が展開され、たびたび混乱を招く。
うまく稼働できていないコールセンターにもよくある事象だ。現場は働くこと自体より、こんなことが頻繁に行われることに疲労している。

ここで考えたいのはコールセンターを改革しようとする時、まず手を付けられるのがコミュニケーターであることについてだ。大抵どこもコミュニケーターを変えようとする。まずは管理者から、とはならない。
それはもちろん管理者が自分たちに問題があるとは考えていないということがあり、コミュニケーターは人数も多く目で見てわかりやすい数値もたくさん算出されるため、指摘しやすいということがあるのだろう。

さらにセンターで冒頭のようなことが起こっていれば現場のモチベーションは下がっているので、生産性も低く遅刻欠勤・離職者も多い状況だと想像できる。もちろんこれは解決すべき課題であるが、これは構造的に引き起こされていることの結果だということを考える必要がある。


まず、うまく稼働できていないセンターでは生産性を上げるためのインセンティブキャンペーンの企画や、稼働を補うために追加出勤者だけに施される時給アップ、罰則的なルールの取り決めや就業規則の変更などが継続して実施される。加えて注目すべき点はこれらを実行するのはコミュニケーターだけだということ。
この時点でもう9割がたの失敗が見込まれる。なぜならこれは内向きのマインドセットで考えられた箱の中の戦略だからだ。だいたいコミュニケーターも自分たちに問題があるとは考えていないし、むしろ自分たちは上司に恵まれず様々事をやらされている被害者だと思っている。
実際にインセンティブキャンペーンは盛り上がらないし、でも止めると生産性が下がる。部分的な人を対象に行われる時給アップは最悪で、不公平感が漂い雰囲気を悪くしている。しかもこのような現場は管理者の資質や勤怠も極めて深刻な状況であるのに、罰則やルール変更に従うのはコミュニケーターに限られる。
この現状はコミュニケーターに、管理者・会社は自分たちのことを大事にする気はないし使い捨ての駒としか思っていない、というような諦めや不信感を抱かせる。こんな心情の中、また時を待たずして次の施策が開始される。

どんなに良い策であったとしても、この様な状況では成果を出すことは困難で、繰り返し行われる事でなおさらウンザリしている。曲がりなりにも現場を良くするためにと考えられた施策は、実はその多くが始める前から効果が期待できないものになっている。

更にまずい事は、この現実に気付いている管理者がいないということ。いや、もしかすると管理者は「変えなければならない事」や「しなければならないこと」に薄々勘付いているのかもしれない。しかし、既得権への執着や変化に対する気後れからなかなか踏み出せずに体裁を保ちながらやり過ごし、気づかないフリをしながら悪くなるに任せている可能性もある。もしくは一緒にチャレンジする信頼できる仲間を作れていないのかもしれない。


コールセンターを改革する時、まず手を付けなければならないのは管理者なのだ。
子供が親の真似をするように部下は上司を見て真似る。今在る現場の姿は管理者そのものと言っても言い過ぎではない。うまく行かない現場には模範と規範が圧倒的に不足していて、それを体現するリーダーシップが不在なのだ。

私が最初にコールセンターの事業に関わったのは今から22年前になるが、そのころに比べると設備やシステムは進化したが、組織体系は当時のままで未だに上意下達の意思決定が行われている。この構造では特権を持った一部の人達しか幸せになれず、同じ組織で働く多くの人達は仕事や組織に魅力を感じることができないし、能力を発揮する機会もない。このことは企業としての求心力を弱め人材確保が難しくなる中で生き残ることも困難にする。

本来管理者の最も重要な仕事の一つは人材育成で、コミュニケーターがより多く判断し、より良い選択ができるようにマインドや仕組み・環境と整えるという役割があるはずだ。多くの人が活躍し、やりがいを感じられる組織にするにはどうすればいいかを考える事は、何よりも優先されるべき懸案事項であるはずだ。仲間と協力し想いを共有しチャレンジすることで、これまで実感することのなかった一体感が醸成され、長年の孤独とも訣別できる。
個人の利害ではなく組織の利益を考え行動すると覚悟を決める時がきている。